日本刀の魅力

 長年日本刀について学んだ人でも、名刀を見るたびに新しい感動を覚えると言われています。それほど日本刀の美は完成されており、鑑賞する上で奥の深いものなのです。日本刀は人間が造り出した造形美の一つですが、西洋美術と同様に、鑑賞者を感動させます。見るだけで邪念、疲れが吹き飛んでしまうような、高潔な精神が入り込んでくるのです。日本刀の歴史は長く、その起こりを探れば古代にまでさかのぼることが出来ます。日本全国で類似する刀(反りのある刀)が造られ始めたのは、12世紀に入ってからのことですが、刀剣自体は神話の中にさえ登場します。例えば草薙剣は最も有名な刀剣の一つで、スサノオノミコトが八岐大蛇を退治した時に生まれた剣として知られています。草薙剣は現在でも天皇の即位の際に継承する三種の神器の一つとして、大切に伝承されています。
 刀剣は、神話の時代から神聖視されていたことが分かりますが、その伝統は日本民族、氏、家族を守るための武器というイメージを増幅させました。長い歴史の中で日本も外国の侵略、病原菌、怨霊を相手に闘ってきましたが、その過程で日本刀の神性が保たれてきたのです。「女性や一族を守ろうとする男が手にする日本刀」という意識は一層強くなり、危険を潜り抜ける中で輝いていく男と日本刀とが重ね合わされてきたと考えられます。
 日本刀が武器であることに変わりはありませんが、ここで言う「武器」とは、単に攻撃するもの、殺傷するものという意味ではありません。戦うことなく平和を守ることを理想とした日本人にとって、日本刀は存在するだけで災厄を鎮めるものだったのです。刀工たちはこうした日本人の精神を象徴する刀剣を造るために、心血を注ぐ日々を送りました。

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